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「っ・・・痛いです、よ」
壁に押さえつけられた己の手首が悲鳴を上げる。恐怖と痛みに表情を歪めないよう何とか堪えるが、彼の前では無意味な事だと分ってもいる。そして、彼がこうなるともう誰にも止められはしない、とも。 「・・それ、俺を誘ってるの?」 普段の彼からは想像もつかないような柔らかな微笑を浮かべ、優しく紡がれる甘い声は相手を狂わせる。 彼が自分に対して何かしらの想いを寄せている事は何となく気付いていた。不本意ではあるが、その逆もまた然り。 気付けば彼を目で追ってしまっているのも事実ではある。が、彼の方は純粋な其れでは無いようで。 自分にとって、彼は所詮天敵でしか無かった。 彼の其れは決して愛とか恋とかいうものでは無かった。そうだと信じたかった。 彼の瞳からは、何時も殺気しか感じられないのだ。 「・・・まさか。貴方も分っているのなら、もう少し手加減したら如何ですか」 「嫌だね」 即答。男は口元だけでくすりと笑って、そのまま目の前の首を鷲掴みにする。 「――っ!!」 余程豊富な経験が在るのだろう。絞め上げてくる細く長い指の力は半端無いが、しかし何とか意識を保てるギリギリの地点まで加減しているのが分る。 (いっそ、このまま殺してくれたら楽なのに) 唯、恐い。悔しい。されるがまま何も出来ない自分が痛い。声にならない声が憎い。 「何死にそうな顔してるの」 「・・・っは、・・・・・・させた本人が・・言う、台詞です・・・・か」 「そんなに華奢でも無いくせに」 前触れも無く唐突に、絞めていた手をぱっと放した。 開放された安心感か、それともこれから起こるであろう事への恐怖か―――意識が朦朧として、視界が霞んで見えた。壁に背を預けて、そのままずるずると滑り落ちる。 (何て、情けない姿だろう) 自尊心など気にしている暇は無いと思いながらも、ただもう逃げはしないと決めた。もう十分過ぎる程逃げてきた。 真っ直ぐに、彼の瞳を覗き込む。 「何、してるんです?ほら、目当ての物が此処に在るなら・・・どうにでもしたらいい。貴方の望む様に」 彼はほんの少しだけ眼を丸くする。嗚呼、馬鹿だな――何一つ、彼に勝ってすら無いのに。 それでも愛していると言ったら、笑われるだろうか? 「・・・何時の間に、そんな従順な犬に成り下がったんだい」 「さあ?出逢った瞬間、からじゃないですか」 ――獲物としてでも彼に喰われたいと思うのは、自惚れだろうか・・・? 闇の中で、視線が交じり合う。虚無の夜に、くすりと哂い合う。 ―――もう、「逃げはしないよ」 「逃がさないよ」 title by 酸性キャンディー PR |
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壱希
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