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紅藍テディー
ハローハロー、僕はここにいるよ。
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気付いたら部屋はセピア色に染まっていて、それが夕陽の色だと気付くのに少しかかった。微かな埃の匂い。ああ、僕は写真の中に入り込んでしまったのかもしれない。

「眩しい?」

目の前の男が尋ねてきた。そうだね、と僕は答えたけれど、カーテンを閉める心算はないようだ。
黙って外をみつめて目を細める。銀色の長い睫毛がいやに艶かしくみえた。

「不思議だね。こんなに久しぶりに君と会えたのに、なにひとつ変わった気がしない。これじゃ素直に再会を喜べないじゃないか」
「僕は会いたくなかったよ」
「そう?じゃあ僕だけが無駄に楽しみにしてたわけだ。死ぬまでの鼓動の数は決まってるというのに、君の所為で何秒寿命が縮んだんだろう」

言いながら、けれど彼はとても嬉しそうだった。昔からポーカーフェイスを崩すのが苦手な奴だったけれど、手元のスプーンは忙しなく紅茶を掻きまわしている。早く飲みなよ、と僕が言うと彼は手を止めて、君の所為で冷めちゃったじゃないか、と笑った。

「あ、思い出した。覚えてる?お互いの指輪交換してさ、次会えたときに返そうねって言ってたやつ」
「そんな古い約束忘れた」
「ひどい」
「君だって今まで忘れてたくせに」

なるほど、覚えはないが、確かに僕の左手の薬指には少し欠けた小さな宝石がくっついた指輪が嵌っていた。
セピア色。元は瑠璃色か何かだったんだろうか。

「これ?はい」

差し出すと、彼は黙って受け取りそれをまじまじと見つめた。
と、ふと僕は彼の指にあるはずの僕の指輪を探した。見当たらない。

「僕のは?」

彼は顔をあげて、きょとんと目を丸くした。それから、

「食べちゃった」
「は?」
「食べちゃった、君の指輪」

錆びるだろ、と言いかけて、ああこれが彼なりの誘い方だったと思いだした。悔しいくらいに懐かしさが込み上げてくる。
今更。彼だって何も変わっちゃいない、1世紀前に出逢ったままの彼だ。

「やっぱり僕は会いたくなかったよ」


カーテンを閉めても夜はまだ来ない。



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